2024
001 立教新座中学校・高等学校鉄道研究会
『本当に大切なもの』
「もうやめだ」
地震が起きたあと、私は沿線の被害を確認するために歩いた。崩れた築堤、燃え尽きた住宅、その瓦礫をかき分けながら必死に子を探す親の声。そこには「ゼツボウ」しか広がっていなかった。もうここから復興するビジョンが見えなかった。
それと同時にそれまでの日常がどれだけ大切なものかを知った。
しかし、次の瞬間私は「はっ!」とした。近所の避難所では炊き出しを行い、瓦礫の撤去やインフラの復旧に他県からの応援が来ている。「色んな人が『キボウ』に向かっているのに俺がいかなくてどうすんねや」そうして私は進み始めた。
そこから先は苦難の連続だった。崩壊した築堤はすべて高架に変え、軌道を整備し、160 日で全線復旧した。
いま、この街は前とは大きく変わった。家やビルは建て直され、住む住民の顔も、世帯構成も大きく変わった。しかしそれもまた日常だ。本当に大切なものは日常を作り出すために進むことなのだといま感じている。
051 鶴見大学附属中学校・高等学校
『きぶんしだいの季節』
今朝は珍しく気温が下がりそうだ。丸っこい朝焼けを見ることができそうだから今日は歩いて登校しようと思う。蜜柑色の空はまるで太陽が一日の始まりを歓迎しているかのようで、優しい涼しさを作り出してくれる。
太陽は丸くなりすぎても困るし、かくかくしても機嫌が悪くて困る。平和な一日の始まりには太陽の機嫌を取ることが大切なのであ
る。昼に地面がぎらぎらと照らされると、それを見計らったかのように雲が現れる。彼は大抵笑顔で接してくれるが、これもまた機嫌を損ねると鉄橋にコツンこつんと音を立てる角砂糖のような雨を降らす。
学校が終わり京急鶴見から品川行に乗る。発車すると、ほどなくして鶴見川を渡る。桜餅色の夕焼けを見ると、一日の疲れが癒される。朝、昼の鶴見川そして今見た鶴見川。実にさまざまな色になることが分かり、まるで季節が散歩しているように思えてきた。はてしなく続く鶴見川を見ながら季節に想像をふくらませるのであった。
072 奈良工業高等専門学校機械研究会
『駅を想う』
「まもなく○○です。」聞き慣れた声が流れ、そそくさと降りる準備をする。そう、ここはいつか来たかった、快速列車も止まらぬ小さな駅。
ふと前を見ると、同じ駅から乗ったおじいさんはまだ気持ちよさそうに眠っている。昼下がりの鈍行列車ほど眠気を誘うものは無いだろう。
プラットホームに降り立ち、ひとつ伸びをする。降りる乗客は私一人のようだ。列車が去ってしまっても静寂はやってこない。何の音だろうとホームから見下ろすと、大きな滝がエメラルドグリーンの川へ注いでいる。
昭和初期に建てられた木造駅舎には、年配の駅員が一人。無愛想に途中下車印をぽんと押してくれた。
見知らぬまちを散歩する時間は、私の楽しみだ。たまにはスマホも地図も見ない旅も良いものである。古い旅館や商店が立ち並ぶところを見るに、ここは宿場町だったのだろう。
―― と、そんな旅の想像をしながら、私は時刻表のページをまた一つめくるのであった。
004 ヒューマンキャンパス高等学校秋葉原学習センター
『峠の日常、最後の日 』
「ご乗車お疲れ様でした。2番線は……」
駅員の放送が、山間に響く。
列車から降りると、そこには見慣れた光景が広がっていた。
この先の区間は、厳しい峠越えの区間。列車はそれに備え、この駅で補助機関車を繋ぐことになっている。
しかし、それも今日限り。明日からは新幹線にバトンを渡し、この区間はバスで代替されることになっている。
最後にその光景を見に行こうと思った私は、仕事終わリにそのまま特急へと乗リ込み、この地へ赴いたのだ。
列車から降りると、ホームにはたくさんのファンがひしめき合っていた。
熱心にカメラのシャッターを切ったり、ビデオカメラで動画を回したり。一人ひとりが思い思いの方法で、残された時間を楽しんでいるようだった。
作業を見届けた私は、再び列車に乗リ込んだ。発車ベルが鳴り、列車のドアが閉まる。
エアーの抜かれた台車の独特な乗り心地を味わいながら、私は最後の峠越えを精いっぱい楽しもうと決めたのだった。
010 慶應義塾志木高等学校鉄道研究会
『ヨコハマコンクリートジャングル』
何のために生まれて、何のために働くのか。就職したての彼はずっと自問自答していた。
朝の満員電車、彼の中で結論を急ぐ彼と、その問いを捨てようとする彼とがぶつかる。だが結局その争いさえも、都会のせわしなさの中に埋もれてゆくのであった。
感情を押し殺し、今日も職場へ向かう。最寄駅からの路は、新社会人の目には物珍しく見えるのだろうが、もう見飽きた。見回してもアスファルトとコンクリートに囲まれたこの空間は、まるで自分を閉じ込める檻のようだ。
唯一の獄友はこの廃線の鉄橋である。昔は都会の大動脈としてご活躍だったようだが、今やただ使い道もない、歩道の障害物だ。「上を向いて歩こう」とはいうが、このさえない都会で彼は、自分と、上を向いて見えるこのくたびれた鉄橋を重ね合わせ、いつか自分もこう捨てられるのかと怯えている。
さあ定時も近い。こうして日々を繰り返し、獄友と別れを告げ、彼は自分の牢へ向かうのであった。
011 東京都立蔵前工科高等学校模型部
『極光』
ある夏の日の黄昏。
私は憧れのヒトと一緒に祭りに来ていた。
一緒に祭りに行こうという誘いをするだけで、どれだけの勇気を振り絞ったか、浴衣を選び、完璧に着付けするのにどれだけ時間がかかったか、このヒトに気づかれることはないだろう。
最初は緊張で体が強張ってぎこちない会話ばかりしていたが、出店の射的や金魚すくい、定番のお祭りグルメを一緒に楽しむうちに、いつの間にか最初の緊張はなくなっていた。
辺り一帯が深い夜の闇に染まっていった頃、この祭りの名物である打ち上げ花火が始まった。
一つ一つの花火が暗闇を明るく彩り、言葉に言い表せない感情が、自分だけでなく、花火を見ている全員を包み込む。
私は、「今しかない」という根拠のない思いに心を埋め尽くされる。
花火がクライマックスに近づいていく中、その人の名前を呼ぶ。
私がその人に対する思いをすべて込めた二文字を伝えた瞬間、ひときわ大きな花火が空に光り、響いた。
014 都立科学技術高等学校 鉄道研究部
『悲哀の松島』
東北本線にある煉瓦造りの暗闇を抜けた時、眼鏡をかけたときのように視界が透き通ってた。そこには落ち着きを持ち自然の威厳を
保った雄島が遠くから顔を出した。浅い海はキラキラと息をしていて、下には青色の帯をした仙石線が地をかていて窓から目を凝らすとみんなそれとちらちら見える赤い渡月橋に釘付けだった。
有頂天に立っていると碌なことがないとはまさにこのことだ。「次は松島」と聞こえた時に大きな過ちに気づいてしまった。無情にもどん底に落とされた客を 1 人を乗せた緑塗りの列車は森に溶け込んでゆくのだった。
017 奈良学園登美ケ丘⾼等学校 交通研究部
『凛と⽴ち新緑』
修学旅⾏中の僕は春空の下、奈良公園を抜け東⼤寺に着いた。
荘厳な⼤仏殿に座する⼤仏は毅然としつつ、優しく⾒守ってくれている。隣接する興福寺では五重塔が凛と⽴ち、柱の褐⾊と新緑の柔らかさの対⽐がこの上なく美しい…
楓がムッと睨んで僕を呼んでいる。学級委員らしくうるさいヤツだ。
渋々バスへ戻る。⽣駒駅への道中、⽇差しに輝く⽔⽥や⾦⿂池、遥か遠くの吉野⼭などを眺めていた。
吉野⼭の奥、昨⽇渡った⾕瀬の吊り橋を思い出す。その⾼さに思わずしゃがみこんでしまった。と、特徴のあるストラップをつけた⼿が差しだされた。背後から彼⼥に射す陽光の眩しさに耐えつつ、⼿をとり⽴ち上がる。彼⼥に礼を⾔おうとするが、⾒失ってしまい…
バスが⽣駒駅に着き、最古のケーブルカーへ。⼭上の⾶⾏塔は鉄⾻が剥き出しで、飾らず魅⼒的…
「着いたよ。さあ早く!」
むっと振り向き、ふと気づく。僕を叱った楓の腕には、吊橋ストラップがついていた。
020 東京都立産業技術高等専門学校荒川キャンパス鉄道ジオラマ同好会
『四十分の停車時間< 遠軽駅で見つけた風景>』
十二時五二分、列車は平面スイッチバックで有名な遠軽駅に到着した。この駅では四十分ほど停車時間があった。
お昼ごはんを食べていない私のお腹はすでにペコペコになっていた。父親から聞いていた有名な駅そば屋を探したが、数年前に閉店してしまったらしく建物だけが残っていた。駅には売店もないので仕方なく自動販売機でチョコレート菓子を買って食べることにした。家でも食べるお菓子だが、不思議なことに家で食べるより美味しいなと感じた。
空腹を満たした私は改札の外へ出てみることにした。高台になっている駅舎を出ると眼前には北海道らしい碁盤目状の町並みが広がり、背後には町のシンボルである瞰望岩がそびえ立っていた。来訪記念に瞰望岩が描かれた駅スタンプを押したり、入場券を買っていると、列車の発車時刻が近づき私は急いで列車に戻った。「駅そば食べたかったな」と少し未練を残しつつも瞰望岩に見送られながら、私は遠軽を後にした。
023 海城中学高等学校 鉄道研究部
『少し遅めの春』
「明日から来なくていいから」
順調に人生の階段を昇り詰め、数年前から外資系企業で働いていた私が、初めてその階段を踏み外した瞬間であった。
早々に荷物をまとめその場を後にしたが、とても家に帰る気分になれない。外にでれば土砂降りの雨。傘もささずに駅まで歩き、丁度ホームに滑り込んだ電車に乗った。
それからどのくらい溜息を重ねただろうか。いつの間にか外の雨は小降りになっていて、電車は少し開けた場所に差し掛かったところだった。線路脇の茶畑では茶摘みの最中であろうか、それを手伝う子供の姿も見受けられる。するとふいに子供が立ち上がり、こちらに大きく手を振った。
目が合ったその子供の瞳は未来への希望と期待に溢れているような気がした。思わず目をそらす。反対側の田んぼでは田植えをしていた。
私はその時、終わりがあれば、始まりがあるのだということにようやく気が付いたような気がした。
電車の進む先には、確かな晴れ間があった。
024 芝浦工業大学附属中学高等学校
『変遷という名の旅』
茗荷谷にある友人の家へ遊びに行くため、普段は笹塚を使っていたが、今日は方南町から丸ノ内線の電車に揺られていた。丸ノ内線に乗るのはいつぶりだろう。乗っている電車も昔とは違うし、ふと外を見るとホームドアが設置されている。ずいぶん変わったものだ。中野坂上についたので、いつも通り電車から降りて反対側のホームに行っていた。何かが変だと思い、後ろを振り返ると今まで乗ってきた電車に「池袋」と書いてあった。しかし気づいた時には遅く、電車はドアを閉めそのまま走り去っていった。仕方なく次の電車に乗り、引き続き茗荷谷を目指した。新宿や銀座、御茶ノ水など自分に馴染み深い街をたくさん通った。後楽園につく前に東京ドームが見えたのが印象的だった。そしてようやく茗荷谷にたどり着いた。友人に今日あったことを話すと、「実は僕もよくわかってないんだよね」と言われた。互いによく分からないまま別れ、帰りも丸ノ内線に乗った。
028 海陽中等教育学校
『帰る場所』
小雨が降り始めていた、足早に駅の入口を目指す。屋根の下に入り、服についた雨粒を払う。帰宅ラッシュの人波に小さく息を吐いた。ゆっくりとした足取りで、ホームへと降りてゆく。
人波にもまれつつ車内へなだれ込み、席に腰を落とす。電車が動き出すとすぐ、ジョイント音を子守唄に意識を手放した。
気が付けば、小さなホームの上に 1 人ぽつりと立っていた。ここはどこだろう。
眼前に広がる水田は鮮やかな緑に染まり、稲が風にたなびいている。背後には急峻な山々が迫る。清流は川底の岩を撫で、透き通った水は陽の光を受け、輝く。
視界の端に『伊勢鎌倉』を見出した。せせらぎに引かれ、川の方へと歩いてゆく。この景色、そして聞き覚えのある駅名…。
あと少しで思い出せそうなところで、視界は黒く染まった。
はっと目を開けると、最寄り駅に着く直前であった。私は急いで座席から立つ。
ホームに降りて、電話をかける。
「もしもし、母さん?うん。来週帰るよ」
037 洛星中学高等学校 鉄道研究会
『タイムスリップ』
次の改正で遂に、寝台車がこの路線から撤退する。
警笛を響かせながら、列車は入線してきた。乗り込むとすぐに発車し、また闇に包まれる。
成長した息子と夜行で旅することを夢見ていた。しかし、それは半分も叶わなかった。
息子はまだ小さく、寝台車の記憶を留めておくのは難しいだろう。
列車はトンネルを抜け、工場の光が輝く海岸沿いを走っていた。大きくなった息子に、一緒にこの絶景を見たと言っても、信じてもらえるだろうか。
父は私と、ここを夜行列車で旅したという。冗談かもしれない。
父が亡くなってからもう一年がたつ。
寝台でなくとも、父があの旅で一番景色がよかったと語っていた場所から、赤い空と海を眺めることは出来るはずだ。
夜の足音がせまるとき、夕日に照らされる海と田園が見えた。
いつもそばにいた最愛の父。この景色を今、父と見たかった。
光を求めるように列車は走り続ける。橙の海に沈む夕日はきれいだった。
048 開智中学・高等学校
『待ちわびた夏休み』
終業式を終えたその足で犬吠までやってきた。犬吠駅では祖父母の代わりに向日葵が出迎えてくれた。祖父母の家に向かって、人もまばらな昼下がりの道を歩き出した。潮風にすっかり錆びついた門扉から祖母が身を乗り出して出迎えてくれた。杖を突きながら冷たい麦茶とぬれ煎餅を出してくれた祖母に「じいちゃんは?」と尋ねると「あんたが来るというのに、今朝から舟を出してしまったよ」と呆れ混じりだ。日の沈む前からお風呂に入り、夕食に祖母が山ほど作ってくれたさんが焼きを食べると、祖父が帰ってきたことにも気付かないほどぐっすり眠ってしまった。
未明、祖父は寝ている僕に「車に乗れ」と言った。祖父の軽トラは潮の香りのする場所で停まった。
白み始めた海を眺めている祖父。沈黙にいたたまれなくなって「僕が来るのを楽しみにしてた?」と聞いてみた。
すると祖父は、昇ってくる朝日を手で遮りながら小さな声で
「まぁ……」と言った。
049 ⻄⼤和学園中学校・⾼等学校 鉄道研究部
『いつか、絶対』
「彼は⼀学期が終わったら引っ越すことになりました。」担任の先⽣が告げたとき、級友たちは鬱陶しいくらい響き渡る蝉の声をかき消すくらい驚きの叫び声をあげた。
⽗が⾼知市内に転勤になったのに合わせ転校することになった。周りの級友たちはもう⼀緒に遊べないことを寂しがっていたが、⾃分は「同じ県だからいつか会えるさ」と笑って済ましていた。
転校前最後の登校⽇では泣いて別れを惜しむ級友もいたが、いつも通り過ごし、ついに出発の⽇を迎えた。幼馴染が駅まで⾒送りに来てくれた。駅の下を流れる川を眺めながら⼆⼈で思い出話をするうちに次第に⽬頭が熱くなった。学校では隠していた気持ちが滲み出てしまった。
「同じ県だから絶対会えるさ」不意に隣で声がした。「絶対だな」「もちろんさ」そう誓った幼馴染の瞳は、さっきまで⾒ていた川の⽔より澄んでいた。
固い握⼿を交わし列⾞に乗り込む。⾞内には眩しいくらいの⻄⽇が差し込んでいた。
050 星翔高等学校
『緑の中の塔』
トンネルを抜けると辺り一面に緑が目に入りこんできた。目が慣れていくと、建物があることが分かった。気になったので電車を降りてその建物に向かって歩いてくことにした。
そこには、泡が湧き出る川と「三ツ矢サイダー」と書いてある塔があった。
「ここはまさか!」
思わず叫んでしまった。
そう、ここはあの夏目漱石が愛飲していたとされる三ツ矢サイダーの源泉であり、発祥の地なのだ。
わたしは、近くにあった自動販売機で「三ツ矢サイダー」を購入し、夏の暑さの中炭酸と甘みを感じながら
「まさか、こんなところにあったとは・・・・」
と、空になった三ツ矢サイダーの瓶を片手に思わずつぶやいた。
053 高輪中学高等学校
『terminal』
21:30、やっと予備校から出られた。つまらない講師の授業ほど辛いものはない。ひとりになりたくて散歩していると、レンガ作りの建物が目に入る。
入ってみるとおしゃれな雰囲気。バーでは華金のサラリーマンたちが酒を煽っている。2 階もあるらしく、階段に行くとずいぶんと古めかしい雰囲気だ。壁に何か書かれている。なるほど、かつてこの場所は駅だったらしい。しかもターミナル駅。昔の人はこれから始まる旅に心躍らせながらこの階段を上ったのだろうか。
階段を上った先はプラットホームだった。
―せっかくの夏休みは毎日予備校通い
つまらなすぎる
そんなことを思いながら真横を通りすぎる満員電車を眺める。行き先はかなり遠くのようだ。
―そうだ、何も考えずに遠くへ行ってみよう
なにか新しい経験ができるかもしれない
立ち上がり足を踏み出す。期待に胸を膨らませながら階段を駆け下りた。
またここに戻ってこよう。
この場所が私のターミナルになった。
079 山口県立萩商工高等学校 機械・土木科土木コース
『幻の城下町“萩”』
2024年8月4日、毛利輝元が目覚めるとそこは、指月山に建つ、萩城(別名:指月城)を眼下に望むはるか上空であった。
眼下には、今や幻となった萩城が城跡に現れており、城下には、昔の街並み、縁日が催されていた。
そこは、現在では少し寂しくなった街とは想像のつかないくらい、江戸時代の老若男女があちらこちらで楽し気に日常生活を送っている。
夜空には、藩・街・人々の繁栄を願い、花火が鮮やかに次々と花開いていた。
「ぱっ」と、場面は、現在(2024年)に戻り、城、街並みは消え、城跡のみ残された場面になったところで輝元の意識は真っ白な世界に包まれたと思ったところで光が射した。
これは、夢や幻であったのであろうか・・・「豪(ごう)は、目覚め、また日常が続くのであった。
099 東北学院中学校・高等学校 鉄道研究部
『20年目の夏』
「ご乗車ありがとうございました。青森、青森です。乗り継ぎのお客様に接続列車の...」
20年ぶりに降り立った青森の駅は見違えるほどきれいになっていた。
「好きにしろ」
それが父からの最後の言葉だった。灰色に溺れたまちから、光に溢れたまちを目指した2004年春。あのときの自分の選択を素直に応援してくれなかった親父とはもう二度と会わない_はずだった_
いとこから「親父が倒れた」と一報があったのは夏に差し掛かろうとした真夜中だった。そこから先の記憶はないが、いつの間にか始発の新幹線に乗っていた。大宮を出た新幹線は青森を目指しグングンと加速していた。
ずっと後悔していた。
親父がずっと支えてくれたことは知っていた。
知りながらもそうは思いたくなかった自分を嘆いた。
もっと一緒の時間を過ごしたかった。
階段を駆け上がる。改札を抜ける。迎えの車が見えた。「今度は自分が_」そう呟いた青森のまちは、一瞬光ったようにみえた。
136 聖光学院高等学校
『夕暮れの絶景』
平安時代末期に行われた合戦、石橋山の戦い跡地での調査。何も新たな発見はなかったが、作業を終えた夕暮れ、海とみかん畑が夕日に照らされる光景に見とれた。夕日が海とみかん畑を染め上げ、その美しさに心がざわめく。友人たちが早く帰ろうと急かす中、私はひとり、その風景を見つめていた。
「この美しさを肌で感じようではないか。この絶景をもっと目に焼き付けるべきだ」と言ってみる。友人の1人が口にした。「かつては戦火に焼かれたこの地が、今は平和で美しいものとなっている。その対比が、より一層この地に深みを与えているようだね」
その友人は、私が視覚的価値を見出していた景色に歴史的価値をも与えてくれたのだ。過去の戦いの血の痕跡と、現在の静寂さが交錯する瞬間。それはまさに人間の歴史の一部であり、その深層に迫るような感覚が、私の心を揺さぶった。
141 同志社香里中学校・高等学校旅鉄部
『私ののぞみ号』
新幹線のような存在になりたい。
そんな憧れを抱きながら、のぞみ号の自由席に乗り込んだ。
ふとスマホでYouTube を開く。流れてくるのは同世代の若者が活躍している動画ばかりだ。なんて私は地味な存在なのだろう。劣等感に襲われる。そんな私をよそにのぞみ号はトンネルに入っていく。
トンネルを抜け、新神戸駅に到着。のぞみ号も止まり多くの人が利用する駅なのに、神戸の中心地から離れたところに位置する。
中心地へ行くため、新幹線の下にある地下鉄のホームへ行ってみる。前照灯のひかりを強めながら入線してくる6両編成の地下鉄。新幹線に比べると地味な存在だ。神戸の華やかな中心地まで人を運ぶのはこの地下鉄。最近導入された新車の音がこだまする。まさにここでも若者が活躍している。
「あっ。」心の中で感嘆の声もこだまする。
やっぱり地下鉄のような存在になりたい。
そんなのぞみを抱きながら、地下鉄の先頭車に乗り込んだ。
143 昌平中学・高等学校鉄道研究同好会
『秋色の旅路』
どのくらい寝ていたのだろうか。周りを見渡すと客はまばらで、どうやらかなり長い間寝ていたようだ。南会津行きの列車のボックスシートから窓の外を見ると、紅葉の中を駆け抜けているようだ。
時刻を確認しようと左腕の時計を見ると、一限がとっくに始まっている時刻だった。
「もう戻るには遅すぎるかな?」
学校に行くのが嫌になったわけではない。ただ、いつも目の前でやり過ごす快速列車に導かれたような気がしただけだ。
突然周りが轟音に包まれた。驚いて慌てて外を見ると、なだらかに流れる川があり、轟音の正体は列車が薄橙色で少し錆びた橋を渡っているからだとわかった。そして、そこで釣りに励む家族連れが見えた。轟音が鳴り止むと、今度は大舞台のような築堤の区間に入った。築堤からは田んぼで秋起こしをしているお爺さんが見えた。そして、不意に言葉が出た。
「綺麗だ」
人が頑張る姿を見ると心が動かされた気になるのはなぜだろう。